シャア少佐、減速できません!
さて、シャア・アズナブル少佐は、こんなこと言ってますが…、
クラウンさんは実際にはどのような状態にいるのでしょうか?
コレが宇宙世紀0079の世界地図です。
このL1〜L5のポイントはラグランジュ点と呼ばれ、
月と地球の両方の重力の影響を受けることにより
月と同じ周期(27 日 7 時間 43.2 分)で地球の周りを回れるというポイントです。
というわけで、月との位置関係を変えることなく周回していられる便利な場所なので、
ここにスペースコロニーを建設し、それらコロニー群を「サイド」と呼ぶことにしました。
コレを見ますと、サイド7とルナツーは同じL3ポイントにあります。
あまりポイントを外すと、軌道修正を頻繁に、なおかつ大きな推力でやる必要が出てきてしまいますから、両者はものすごく近い位置に在るはずです。
ルナツーが、影響が出るほどの重力を発生させる以上の質量を持っていれば、
サイド7をルナツーの周りを回らせて公転させるというテもあります。
月は約マッハ3(時速3679.2km)程度のスピードで地球の周りを回っています。
最新鋭のジェット戦闘機の最高速度がマッハ2ぐらいですから、ものすごいスピードですね。
ノンビリお空に浮いてるお月さまですが、実は猛烈なスピードで移動してるんです。
で、L3ポイントは若干月より外の軌道を回っていますから、月より少しだけ速い速度で回っています。
L3から地球に行くには、
まず、周回方向に向けて逆噴射しスピードを落とします。
そうすると遠心力が弱まり地球に向かって落ちていきます。(赤い破線の航路)
そのまま自由落下でもそのうち地球に到達しますが、ちょっと時間がかかるので、
地球に向かってロケットエンジンで加速します。
狙いとしては、地表から100〜200kmの高度の衛星軌道。
ここで一休みです。
そんなもの無視して直に地球に降りれば…と思うかもしれませんが…、
実は、宇宙船は自由落下状態なので地球の重力によってどんどん加速されてます。
その猛烈な速度を、大推力のロケットエンジンと大量の推進剤を消費して、
ゼロまで減速しなければなりません。
また、遠心力を利用できませんから、減速を終わらせた後も
常に重力に逆らって1Gでロケットを噴射し続けなければなりません。
つまりは、あまり経済的とはいえません。
んが、宇宙世紀0079では、
資源は木星や小惑星、月など地球以外の天体から採取しているはずで、
地球から燃料や資材を打ち上げている現在とは違って、
燃料やロケットエンジンの推力が足りないというワケではないと思いますので、
そういうやり方が全く出来ないというわけでもないとは思いますが、
燃料の節約のためか、重量の規制でもあるのか、そういう方法は採っていないようです。
ガンダム本編を見る限りでは、
基本的にはアポロ計画やスペースシャトルが行ってるのと同じ方法で
地上まで降りているようです。
さて、目指す軌道まで降りてきたら、
そこでマッハ20程度まで逆噴射により減速し軌道に乗ります。
シャア少佐はここまでの航路のどこかで、補給を受けて戦力を整えています。
もしかしたら、前もって、この軌道に補給部隊を待たせていたのかもしれませんね。
シャア・アズナブル:「フッ、戦いとは、いつも2手3手先を考えて行うものだ」
さて、いよいよ大気圏突入です。
まず、下記のAポイントで逆噴射し減速します。
ソレによって、遠心力が弱まるので、地球に向かって落ちて行きます。(緑色の破線)
基本的には、ここまできたら後戻りはできません。
一応、ホワイトベースやコムサイなどの
大きな推力のエンジンと多くの推進剤を積載している船なら
再度加速して元の軌道に戻ることも可能かもしれませんが、
モビルスーツ単体の推力と積載推進剤の量ではどうも難しいようです。
それでも、クラウンさんの場合は、減速ではなく、加速して元の軌道に戻ることに賭けたほうが、
生存の可能性があったかも知れません。
さて、地表に近づくと空気が濃くなるので、空気抵抗が強まります。
コレによって速度を1/40ぐらいまで減速します。
この方法は、ロケットエンジンによる逆噴射などを使用せずに減速できるわけですから、
全くもってしてリーズナブルな方法なのですが…
このときの空気摩擦によりものすごい高温に晒されるワケで、かなり危険を伴います。
「ザクには、大気圏に突入する性能はない」というのは、
モビルスーツ・ザクは、この高温(と大気摩擦による磨耗?)に耐えられない。
という意味でしょう。
シャア少佐がいくら敵の裏をかくのが大好きだと言っても、
このような状況でモビルスーツ戦を仕掛けてくるとは、正気の沙汰ではありません。
ブライトさんもアムロ君もボンクラだったから助かりましたが、
ガンダムが、「モビルスーツを無視して、コムサイを最初に狙う」という作戦に出て、
ホンのちょっとでも傷を付けることに成功した場合、
シャア以下3機のザクは、即時撤退し、コムサイで元の軌道に戻らなければ、大気摩擦で全滅です。
万一、コムサイを撃破されるようなことがあれば、
その時点で生存の可能性はゼロとなります。
生き残るためには、降伏してホワイトベースに乗せてもらうしかない…
という、とっても恥ずかしい状況に…
もしかしたら、こういうことが常識として知られているので、
敵からの攻撃を避けるために、
あえて旧態依然とした、大気摩擦による減速を伴う大気圏突入という方法を
採っているのかも知れないですね。
シャア・アズナブルという非常識人には通用しませんでしたが…。
(本来、ここまで無謀な作戦により部下の命を失った場合、軍法会議で有罪になる可能性もありますが…)
このときの攻防と大気圏突入の様子は、おそらく地上からも見えたでしょう。
合掌。